―――たまゆらとは、勾玉同士が触れ合ってたてる微かな音のこと。転じて、「ほんのしばらくの間」「一瞬」(瞬間)あるいは「かすか」を意味する古語
芸歴35周年を記念して行った興行、玉響。六夜にわたって多彩なゲストを迎え、それぞれ夏の一夜限りの夢のような共演が実現した。
―――アンサーソングは、落語の演目に対するアーティストによる一曲。 異なるジャンルのアーティストがそれぞれ、考えること。それがこすれあって微かな音を立てる。一期一会。二度がないからこそ、その音が際立つ。
第一夜 ゴスペラーズ
かぼちゃ屋――のらくら者の与太郎にカボチャを売らせる話。原価を教え、「上を見て売れ」と値段について言ったつもりが、与太郎は掛け値なしで打ってしまう。
子別れ――飲んだっくれの大工、熊。葬式帰りに前借の給金を全部吉原ですってしまうダメな亭主に、我慢していた女房はとうとう堪忍袋の緒を切らす。ところが熊は居直って子どもともども女房を追い出してしまう。吉原から女郎が後添えに直るも、これも破局、逃げられてしまう。とうとう目が覚めた熊は3年のあいだまじめに働くが…。落語家によって子どもの描き方にその人が出ると談春談。
ゴスペラーズのアンサーソング――「冬物語」
第二夜 尾崎世界観
桑名船――鮫講釈とも。東海道は尾張の熱田から伊勢の桑名まで、海上を船で行く。これを七里の渡しといった。ところが、乗っていると突然船が動かなくなってしまった。鮫に囲まれ、船がかじられそうになる。船頭が言うには客の一人を人身御供に差し出さねば、みんなやられてしまうという。そこで鮫に見込まれた人を決めるため、懐紙などを順に海に流す。見込まれたのは講釈師。さらば、と観念して黄泉に旅立つ前の最後の願いとして客の前で講釈を始めるが、気づくと鮫が離れていく。
らくだ――長屋の乱暴者で有名な通称らくだ。大柄で嫌われ者の彼がふぐにあたって急死してしまう。兄貴分が訪れて弔いを考えていたところ、ふだんから苛められていた屑屋が通りかかり、脅されて死体を踊らせる「かんかんのう」を切り札に、香典や酒肴をせびるため長屋を回らされる。しかし、二人で通夜をしているうち、杯を重ねた屑屋は変貌して…。
尾崎世界観のアンサーソング――「exダーリン」
第三夜 aiko
お花半七――宮戸川の前半。門限に遅れて親に締め出しを喰らった半七と、近所のお花。半七は近くの伯父さんの家に泊めてもらおうと訪ねていくが、振り切ろうとする半七に追いすがってお花もついてきてしまう。この伯父、早合点で有名で、仲人役が大好きと来ている。案の定、早合点した伯父は二人を快く二階へ上げ、雷の鳴る晩に二人は…。
包丁――よそに女が出来て、世話になった女房と別れたい亭主は、旧友に逆美人局を依頼する。盛り上がったところで現場に自分が踏み込んで浮気を咎めだて、そのまま吉原に売り飛ばしてしまおうというひどい話。この逆美人局、途中までうまくいくのだが、うまくいきすぎて…。談志に「俺よりうまい」と言わせしめた談春の十八番。
aikoのアンサーソング――「月が溶ける」
第四夜 aiko
紙入れ――旦那の留守中に、手紙をよこして間男を家に呼び入れるおかみさん。ところが、旦那は今夜帰らないはずが、突然のご帰宅。間男は慌てて逃げかえるも、紙入れを置き忘れてしまったことに気づいた。そのうえ、おかみさんからの手紙まで紙入れの中に入っている。翌朝青くなって参上し、様子を探ろうとするが、ちぐはぐな会話が展開する。おかみさんのふてぶてしさが見どころの一つ。
文違い――新宿の女郎、お杉は間夫の芳次郎に頼まれて、客の半七と角蔵に金を無心。育ての親にあたる悪い伯父との縁を切りたい、母親の病の薬代にとそれぞれ二人をかきくどく。ところが、芳次郎に渡った金は、眼病の薬などではなく、芳次郎の情婦にわたってしまったことが落した手紙で分かる。一方、半七も芳次郎の手紙を読んで、自分が騙されたと怒り、二人は大げんかに。ひとり平和なのは自分こそお杉の間夫だとうぬぼれる角蔵だけだった。
aikoのアンサーソング――「月が溶ける」
第五夜 斉藤和義
替わり目――手のつけられない酔っ払いの亭主としっかりものの女房のちょっといい話。しこたま酔って帰ってきた亭主が呂律も回らぬままあれこれ理屈をつけては駄々をこね、飲みなおしたいと女房におでんを買いに行かせる。うどん屋を呼び強引に酒に燗をつけさせるなど、わがままいっぱい。ところが、実は女房に頭が上がらない本音がこぼれ出る。
人情八百屋――しがない商いをしている八百屋の平助。つい先日、裏長屋の通りを歩いていると、貧乏な女性が出てきて茄子を少しだけ分けて欲しいと声をかけられる。亭主が長患いで、食べる物にも事欠くという。すぐに売り上げの銭三百文と弁当をめぐんで帰ってきたが、気になってまた行ってみると、夫婦は首を括って心中し、残された子供は鳶の鉄五郎の家に引き取られていた。聞けば、その日渡したお金を大家が未払い家賃として全額取り立てて行ったのだという。怒った鉄五郎らは大家の家を打ち壊し、謝らせる。役人さえ強欲な大家を守ろうとはしない。平助と鉄五郎は義兄弟の杯を交わし、残った子どもたちは平助のところへ引き取られていくのだった。
斉藤和義のアンサーソング――「やさしくなりたい」
第六夜 さだまさし
たちきり――昔、お茶屋遊びの芸者の花代を時間換算するのに線香が用いられていたそうな。芸者小糸と相思相愛になった若旦那が、お茶屋遊びを禁じられ、軟禁される。小糸からは始終手紙が届くが、閉じ込められている若旦那はそれも知らず会いにも行けない。とうとう百日ぶりに解放されると、番頭から渡された小糸の最後の便りを手に訪ねていくが、小糸は恋煩いが高じて死んでいた。しっとりとしたお話。
さだまさしのアンサーソング――「かささぎ」